1-1.デジタル時代の社会変革とIT情勢の関係性

社会の現状と今後の動向(Society5.0

 現代社会は、急速な技術革新と経済のグローバル化によって大きな変化を迎えています。この変化の中で、日本ではSociety5.0という新たな社会モデルの実現が提唱されています。Society5.0は、人間とデジタル技術の融合により、持続可能な社会の実現を目指すものです。この概念は、日本が先導する次世代社会のビジョンであり、DXがその実現に向けた重要な手段となることが期待されています。
Society5.0では、革新的なデジタル技術を活用して、社会の課題を解決し、人々の暮らしを向上させることが求められます。具体的には、AI(人工知能)、ビッグデータIoT(Internet of Things)、ロボット工学、クラウドコンピューティングなどのテクノロジーが駆使され、効率的な社会システムや持続可能な産業構造の構築が進められます。
しかしながら、Society5.0を実現するためには、企業や組織がDXを進め、デジタル化を推進することが不可欠です。DXは、従来のビジネスモデルやプロセスに対する革新的なアプローチであり、さまざまな利点をもたらします。また、大企業と比べ人手や予算などの企業リソースが限定されている中小企業こそ、新たなサービスを創造し、ビジネスを発展させるために、DXを推進することが重要です。

Society5.0の概要図

図1. Society5.0の概要図
(出典)内閣府.”Society5.0”.https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは

ここでは、DXの定義を紹介し、DXの概要を説明します。

DXの定義
DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること1
DXの概要
DXとは、データやデジタル技術を活用して、顧客視点で新たな価値を創出することです。このためには、ビジネスモデルや企業文化などの変革が必要です。DXを推進するためのDX戦略では、まず経営者が自社の理念や存在意義を明確にし、将来の経営ビジョン(5年後や10年後にどのような企業になりたいか)を具体的に描きます。次に、そのビジョンの実現に向けて関係者を巻き込みながら、現在の状況と目標との差を埋めるために解決すべき課題を整理します。そして、デジタル技術を活用してこれらの課題を解決し、ビジネスモデルや組織、企業文化などを変革することで、経営ビジョンの実現を目指します。
また、DXを推進するにあたり、「知識」「人材」「セキュリティ」の3点が重要なキーワードとなります。
DXの定義DXを進めるにあたり必要な3要素
知識ITの基礎知識のほか、ビッグデータなどを活用するためのデータサイエンスの知識やAIブロックチェーンなどの最新技術の知識を取り入れる必要があります。人材業務内容に精通し、求められる要件を新たな技術・手法を用いて実装することができるような人材が求められます。セキュリティ自宅でのリモートワークやクラウドサービスなどを利用するため必然的にセキュリティの強化が必要となります。

1 経済産業省. “デジタルガバナンス・コード2.0”.https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf

生成AIとは

令和4年11月にオープンAIがChatGPTを公開したことをきっかけに、生成AIブームが起きています。ここでは生成AIとセキュリティの関連について説明します。

生成AIの概要
生成AIとは、既存のデータの解析と学習を通じて新たなコンテンツを生成するAI(人工知能)のことです。生成AIはディープラーニングによって自ら学習したデータをもとに、人が作り出すようなテキスト、画像、音楽、映像などのコンテンツを生み出すことができます。
従来のAIが、大量の学習データをもとに結果を予測し、ある行為を自動的に実行していたのに対して、生成AIは人間が与えていない情報やデータから新たなコンテンツを生み出すことができる点で大きな違いがあります。
生成AIの活用
生成AIはさまざまな業務において実用的に活用できるレベルに進化しています。例えばカスタマーサポートでは生成AIを用いたチャットボットに24時間365日対応してもらうことで、顧客の問い合わせに即座に対応できるようになります。広告制作では、バナーやプロモーション用のビジュアルを迅速に、かつ何種類も短時間で生成できます。
このように、生成AIを活用することによって、多くの業務プロセスを効率化することが可能です。
生成AIにおけるセキュリティの概念
生成AIは、攻撃者によってフィッシング攻撃の効率を高めるために悪用される可能性があります。生成AIを使うことで、個々のターゲットに対してパーソナライズされたフィッシングメールを生成することができるため、攻撃の成功率が高まります。また、生成AIは自然言語処理技術を用いて、より自然で信頼性の高いメッセージを生成することができるため、受信者が騙されやすくなります。これに対しては、メールの送信元をよく確認する、リンクのURLを不用意にクリックしないなど、従来のフィッシング対策と同様に気をつける必要があります。
また、情報漏えいのリスクもあります。これは、業務上の機密情報や、個人情報を生成AIに入力してしまうリスクです。生成AIに送信された情報は、提供元の開発者に見られてしまったり、学習データとして使われたりして、情報漏えいにつながってしまう可能性があります。漏えいしてはいけない情報は、生成AIには入力しないように気をつけましょう。
中小企業向けサイバーセキュリティ対策の極意
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