6-1. これからの企業経営で必要な観点:社会の動向

6-1-1. 現実社会とサイバー空間のつながり

 日々の生活や企業活動において、ITの活用は広範囲にわたって浸透しています。インターネット利用率(個人)は平成9年には9.2%でしたが、令和4年には84.9%まで上昇しました。急速なITの普及により、現実社会とサイバー空間が密接に結びつき、私たちの生活やビジネスに大きな変革変化をもたらしています。

インターネット利用率(個人)の推移

図20. インターネット利用率(個人)の推移
(出典) 総務省「通信利用動向調査」をもとに作成

 ITの普及により、私たちはより価値のあるサービスを利用することが可能になりました。例えば、インターネットを介して必要な情報を瞬時に入手したり、オンラインショッピングサイトを利用して、広範囲の商品を比較して購入したりすることができるようになりました。
さらに、スマホなどの普及によって、利用者の意見や情報を即座に国境を超えて交換できるようになりました。SNSやオンラインコミュニティを通じて、個人が持つ意見や情報が一瞬で共有され、世界的な話題になることも少なくありません。社会の意識形成や情報伝達において、ITの果たす役割はより大きくなっていると言えるでしょう。
一方で、ITを活用したサービスの提供を求められています。技術の進化が速く、競争が激化しているため、常に最新のサービスを提供し続ける必要があります。また、企業の経営戦略やビジネスモデルもITの普及に伴って変化しており、革新的なアイデアと素早い行動が求められる時代になっています。
こうした変化を踏まえ、政府は、さらなる経済発展と社会的課題の解決をするため、サイバー空間とフィジカル空間を融合させたシステムによる新たな社会の姿(Society5.0)を未来社会のコンセプトとして提唱しています。

 Society5.0で実現する社会では、企業を中心に付加価値を生み出すための一連の活動であるサプライチェーンも変化します。サプライチェーンは、製造、物流、在庫管理、販売などの過程を通じて製品やサービスが供給される経路全体を指します。これまでは、主にサービスが供給される物理的な流れであるフィジカル空間が中心とされていましたが、今後の社会では、サイバー空間とのつながりが重要視されています。
サプライチェーンで利用される技術として、IoTデバイスやAIが挙げられます。IoTデバイスやAIが導入されることにより、製造や物流などのプロセスにおいてセンサーやネットワークが活用され、物理的な動作をサイバー空間で制御・監視できるようになります。さらに、クラウドコンピューティングの普及により、サプライチェーンにおける情報共有やデータのやり取りが容易になり、他社との連携が可能になります。これにより、サプライチェーン全体が可視化され、フィジカル空間とサイバー空間が融合し、サプライチェーンを構成する企業同士の関係は、フィジカル空間に加えて、サイバー空間においても密接になります。
今後の社会では、サプライチェーンにおけるフィジカル空間とサイバー空間とのつながりが重要視されています。そして、Society5.0に合ったサプライチェーンに変化することで、従来のサプライチェーンもより柔軟で効率的なものになります。

サイバー空間とフィジカル空間の関係図

図21. サイバー空間とフィジカル空間の関係図
(出典) 経済産業省「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワークVer.1.0」をもとに作成

 サイバー空間とフィジカル空間を密接に統合する仕組みをCPS(サイバーフィジカルシステム)と呼んでいます。CPSは多様なデータをセンサーネットワークなどで収集し、サイバー空間で分析、知識化を行い、その結果を現実世界に反映させることによって産業の活性化や社会問題の解決を行います。CPS/IoTの利活用分野別の世界市場調査の結果を電子情報技術産業協会(JEITA)が平成29年に公表しました。CPS/IoTの世界市場規模は、平成28年時点で、世界で194兆円、日本で11.1兆円でしたが、令和11年には世界で404.4兆円、日本で19.7兆円とほぼ倍増する見込みです。

 CPS/IoTの世界市場の推移

図22. CPS/IoTの世界市場の推移
(出典) JIETA「CPS/IoT世界市場の利活用分野別需要額見通し」をもとに作成

 CPS/IoT市場を10の利活用分野別にみた調査結果によると、令和11年時点で最も大きい市場が家庭・個人で106.1兆円です。次いで流通・物流が44.9兆円、製造(FA・自動車)が44兆円、公共が39.3兆円、金融が29.9兆円、放送・通信が25兆円、医療・介護が22.3兆円、農業が7.8兆円、環境・エネルギーが5.4兆円、その他産業が79.8兆円となっています。CPS/流通・物流、製造(FA・自動車)の市場規模が高いことは、製品やサービスが供給される経路全体を指すサプライチェーンとCPSが関わると言えます。世界的にもCPS/IoTの需要額が増加することから、企業は生産性向上や課題の解決のためにCPS/IoTの利活用が重要になります。

CPS/IoTの利活用分野別需要額の推移

図23. CPS/IoTの利活用分野別需要額の推移
(出典) JIETA「CPS/IoT世界市場の利活用分野別需要額見通し」をもとに作成

6-1-2. IT活用における課題

 我が国のデジタル化について、デジタルインフラ整備などの一部については世界的に見ても進んでいるものの、全体としては大幅に後れていると言えます。さまざまな理由が複雑に絡み合い、我が国のデジタル化の後れが生じていると考えられます。8
ここでは日本社会がデジタル化で後れをとった理由についてみていきます。

8 総務省.”情報通信白書令和3年版”. ”https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01honpen.pdf

我が国がデジタル化で後れをとった6つの理由
1. ICT投資の低迷
我が国におけるICT投資は、1997年をピークに減少傾向にあります。また、我が国におけるICT投資の8割が現行ビジネスの維持・運営に当てられているなど、従来型のシステム(レガシーシステム)が多く残っており、その頃の考え方やアーキテクチャから抜け出せていないと言われています。これらを背景として、我が国では、オープン化やクラウド化への対応、業務やデータの標準化が遅れ、業務効率化やデータ活用が進んでいない状況にあると考えられます。
2. 業務改革等を伴わないICT投資
ICT投資が効果を発揮するためには、業務改革や企業組織の改編などを併せて行うことが重要とされていますが、外部委託に全面的に依存することで、業務改革などをしない形でのICT導入となり、十分な効果が発揮できなかったため、デジタル化に向けたさらなるICT投資が積極的に行われなかった可能性があります。
3. ICT人材の不足・偏在
我が国のICT人材は、量も質も十分ではないとユーザー企業に認識されています。また、その人材についても、外部ベンダーへの依存度が高く、ICT企業以外のユーザー企業に多く配置されており、ユーザー企業では、組織内でICT人材の育成・確保ができていません。
4. 過去の成功体験
我が国は、高度経済成長期を経て、世界有数の経済大国となりましたが、ICT関連製造業についても生産・輸出が1985年頃まで増加傾向にあり、「電子立国」とも称されていました。2000年代に入ってからは、ICT関連製造業の生産額が減少傾向に転じ、2000年代後半には輸出額も減少傾向にありますが、それ以前の成功体験により、抜本的な変革を行うよりも、個別最適による業務改善が中心となり、デジタル社会の到来に対応できていないと言われています。
5. デジタル化への不安感・抵抗感
デジタル化が進んでいない理由として最も多く挙げられたことが「情報セキュリティやプライバシー漏えいへの不安があるから」(52.2%)でした。また、パーソナルデータの企業などによる不適切な利用、インターネット上に流布する偽情報への対応、慣れないデジタル操作などへの習熟など、さまざまな要因により、デジタル化に対する不安感・抵抗感が生じる場合があると考えられます。
6. デジタルリテラシーが十分ではない
デジタル化が進んでいない理由として2番目に多く挙げられたことが「利用する人のリテラシーが不足しているから」(44.2%)でした。このようにデジタルリテラシーが十分ではないと考えられることから、デジタル化推進に対して消極的になる場合があると考えられます。

(出典) 総務省「情報通信白書令和3年版」をもとに作成

 現在、日本においてDXの取組状況がどのような状態かを確認するため、DXに取り組む企業が多いとされる米国と比較します。

1. DXの取組状況
日本でDXに取り組んでいる企業の割合は令和3年度調査の55.8%から令和4年度調査では69.3%に増加、令和4年度調査の米国の77.9%に近づいており、この1年でDXに取り組む企業の割合は増加しています。ただし、全社戦略に基づいて取り組んでいる割合は米国が68.1%に対して日本が54.2%となっており、全社横断での組織的な取組として、さらに進めていく必要があります。
DXの取組状況

図24 . DXの取組状況
(出典)IPA「DX白書2023」をもとに作成

2. DXの取組の成果
DXの取組において、日本で「成果が出ている」の企業の割合は令和3年度調査の49.5%から令和4年度調査は58.0%に増加しました。一方、米国は89.0%が「成果が出ている」となっており、日本でDXへ取り組む企業の割合は増加しているものの、成果の創出において日米差は依然として大きいです。
DXの取組の成果

図25. DXの取組の成果
(出典)IPA「DX白書2023」をもとに作成

中小企業向けサイバーセキュリティ対策の極意
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